CASE #03e-casebook FORUM|PCI若手医師への日常的症例相談

症例の共有で若手医師の「判断力」を養う

小堀 裕一

戸田中央総合病院 心臓血管センター内科 部長(取材当時:戸田中央総合病院 心臓血管センター内科 副部長)

心血管カテーテル治療である冠動脈インターベンション(PCI)を始めたばかりの若手医師は、学会や研究会に参加する機会が限られているため、書籍や身近な先輩医師の指導による情報しか得ることができない。
自身の経験から、若手医師こそ多くの症例に触れ、正しいと自己判断できる情報・知識を得るべきだと考える小堀氏は、広い視野を持って治療を行える専門医を育てるために、e-casebook FORUMで若手医師向けの会員限定のフォーラムを運営している。

記事公開日:2018年8月8日
最終更新日:2023年11月20日

多様な情報は若い医師にこそ必要

若い頃はとにかくインターベンションがうまくなりたくて、多くの症例を経験し優れた手術者(オペレーター)になりたいと思っていました。大学病院での研修時には、主に3人のオペレーターから指導を受けていました。しかし、三人三様の言葉通り、一つの疾患に対しての治療コンセプトが3人で完全に一致することはありませんでした。そのため、PCIの治療方針はできるだけ3人の先生から意見を聞くようにし、その中で「この症例に関してはあの先生の教えが役立つだろう」と自分自身で判断していました。いつしか、さまざまな意見を聞き、その考え方を取り入れ、その中でどれが適切か判断する、という習慣が身についていました。これは(2018年)現在も、優れたオペレーターになるための重要な要素だと考えています。

このような経験から、若手医師は自身の所属する病院に閉じこもり偏った情報だけで治療するべきではなく、院外のさまざまな医師の話を聞き、異なる視点から情報を収集することが肝要だと信じています。

ERNEST Clubの立ち上げ

最近、日本各地の研究会に参加する機会が増え、若手医師との対話も増えました。彼らは自分の若い頃と同じように、とにかくインターベンションのスキルを高めたいと思っており、そのために学会に参加しより多くの知識を得たいと望んでいます。しかし、大規模な学会となると通常はある程度の役職のある医師が参加します。新米や若手の医師は、そもそも日々の治療をこなすのに手一杯で、小さな研究会にすら行く機会も時間もありません。

若手医師は主に自身の上司から知識や情報を得ています。その情報は正しいと思いますが、心血管カテーテル治療という専門分野では、治療の基本原則は共通していますが、専門医が10人いれば、治療の微妙な細かい部分が10人それぞれ異なることもあります。したがって、若手医師はさまざまな専門医の意見を積極的に聞き、最適だと思った方法を選ぶ方が将来的に専門医として成長します。自身が思いついた治療法が上司の方針と違うために断念していたら、可能性が狭まってしまいます。このような事態を解消するため、若手医師向けの小規模の研究会を開催していました。

そんな中、e-casebookチームからe-casebook FORUMに関して何かいいアイデアがないかという話を受けました。オンラインで症例検討する場があれば、スマートフォンを使って移動中でもアクセスでき、いつでもどこでも手軽に最新の技術や治療器具を知り、エキスパートの医師の症例に触れることができ、若手医師にとって多くのメリットがあると考えました。これまでe-casebook FORUMでは、土金悦夫先生(豊橋ハートセンター)のフォーラムや角辻暁先生(大阪大学)のフォーラムなど、エキスパートを目指す医師向けに特化したフォーラムが多く、実は若手医師には少し敷居が高かったりします。そのため今回のお誘いを受け、初級及び中級の医師を対象としたフォーラムを立ち上げることになりました。それが「Evolution and Revolution of New Era interventionaliST Club(新時代のインターベンショナリストの進化と革命)」、略して「ERNEST Club」です。まだエキスパートのレベルに達していない医師たちのため、手軽に情報を手に入れる場所を提供することに意味があると思います。

初・中級者向けフォーラムの運営

e-casebook FORUMの操作は、最初かなり時間がかかりましたが、すぐに慣れました。パソコンで症例データをアップロードし、編集し、後からスマートフォンで細かい文字修正を行っています。

初・中級者が疑問に思う症例、つまり初級から中級くらいの難易度のカテーテル治療に焦点を当てて症例を提示し、参加者からの疑問点を聞き、私が回答する形式で行っています。ただし、参加者が増えると、初・中級者とはいえ技術の幅が広がるため、全員が望む症例を選択することが難しくなります。例えば土金先生のフォーラムで心血管の冠動脈の慢性完全閉塞(CTO)病変治療の症例を提示すれば参加者は興味を持ってくれます。ERNEST ClubでCTOを経験したことのない初級者にCTOの話をしても理解されませんし、逆にフォーラム内にはある程度経験のある中級者もいるので、基礎的な内容ばかりを提供すると飽きられてしまうこともあります。このバランスが難しい課題ですが、CTO、Complex(複雑病変) 、PCI、合併症、またCTOなど、全ての参加者が興味を持つように、いろいろなレベルの内容を織り交ぜて提供しています。

オンラインとリアルの研究会の違い

e-casebook FORUMを始めてみて、リアルな研究会と比べて最も異なる点は、当たり前のことですが、参加者の生の反応が分からないことです。Face to Faceの研究会では、興味を示す表情や、質問の有無などの反応が感じ取れます。しかし、オンラインでは参加者が楽しんでいるかどうかの反応が分かりません。知人であり参加者である人に会うと「勉強になっている」と言われますし、「前回アップされた症例について詳しく教えてほしい」と聞かれることもありますが、e-casebook FORUMのコメント欄に書いてもらえたらとも思います。何でも質問してくださいと伝えているのですが、やはり初・中級レベルの参加者にとっては、名前と質問内容が残るので、コメントを書くのも敷居が高いようです。この問題に対処するには、場合によっては匿名でコメントできるようにするなど、何らかの方法を検討しています。リアルな研究会では遠慮してしまうような初歩的な質問でも、オンラインならできるかもしれません。それもe-casebook FORUMの可能性の一つではないでしょうか。

e-casebook FORUMで育てる若手医師の「判断力」

e-casebook FORUMに投稿する症例は、ストックしているものとオンゴーイングの日常臨床で行っている症例が半々です。特に私のフォーラムは若い医師が多く参加しているため、合併症の症例には多くの反応があります。PCI術者にとって誰しも必ず最初に経験するのが合併症です。そのときに持っている知識の有無によって、救える命も救えなくなってしまうことがあります。いかに情報を蓄えておくかが一番重要だと考えています。

多くの研究会では特殊な治療や難しい治療が発表されることが多いですが、私のフォーラムは異なります。むしろ、デイリー・プラクティスの症例を取り上げ、これから成長する若手医師と共有すべき情報や、もし若い頃にこうしたやり方があると知っていたら役立ったであろう症例を紹介しています。経験の浅い若い医師でも、知識や情報を吸収することで、臨床時の「判断力」を養うことができます。かつての私自身の経験から、このフォーラムで実現できると確信しています。

 

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e-casebook FORUMの多彩な活用方法と医療への貢献

e-casebook FORUMは、スマートフォンで手軽にアクセスしてチェックできるので、時間が空いた時にアプリを開く感覚で、多くの人に使ってもらえるサービスです。シンプルな導入ながら、国際基準規格の医療用データ様式であるDICOM(ダイコム)の動画もしっかり閲覧でき、画像に直接指示を描き込んでコメントもでき、最新情報が簡単に入手できます。症例相談をするには最適なシステムです。インターネットが接続されている限り世界中の誰とでもコミュニケーションが可能です。エキスパート同士のハイレベルな症例検討から、修行中の若手医師の教育まで幅広く活用できます。e-casebook FORUMの汎用性をより多くの人に理解してもらえれば、さまざまな使い道で利用者が増え、きっとより良い医療環境の実現につながるでしょう。