DOCTOR'S VOICES
基幹病院と高次医療機関をつなぎ希少疾患と疑われる症例の遠隔カンファレンス
中野 嘉久 氏
名古屋大学医学部附属病院 / 先端医療開発部 先端医療・臨床研究支援センター 特任助教 / 循環器内科
希少疾患である肺高血圧症は循環器内科の医師でも診る機会が少ない疾患である。愛知県内で肺高血圧症の専門的な診断や治療が可能な医療機関は限られており、名古屋大学医学部附属病院は数少ない病院の一つだ。地域の病院と名古屋大学医学部附属病院をつなぎ、相互に情報連携を図るために、NUCAN電子@連絡帳による診療連携をスタートさせた。NUCAN電子@連絡帳を導入してコミュニケーションが円滑になったものの、エコー動画やCT画像など大容量データの共有には課題が残った。そこでCaselineを導入することで遠隔での院外カンファレンスでも、Face to Faceの院内カンファレンスと同様に、スムーズに動画共有が可能になったと中野氏は語る。
記事公開日:2024年10月16日
希少疾患の治療拠点としての名古屋大学医学部附属病院
私は、名古屋大学医学部附属病院の循環器内科で、肺高血圧症という希少疾患の診療に従事しています。肺高血圧症は、心臓から肺へ向かう血管である肺動脈の圧力が高くなる疾患で、軽い動作でも息切れや呼吸困難といった症状が現れるのが特徴です。国内における患者数は少ないものの一定数おり、大都市圏を除くと各県に1施設あるかないかの体制で診療が行われています。
肺高血圧症は、心臓血管を専門とする循環器内科の医師であっても診療機会が少ない疾患です。患者さんは体調に異変を感じた場合、まずは近隣のクリニックを受診します。異常が認められた場合、地域の基幹病院や総合病院に紹介されます。そのため、当院を含め、各地域の肺高血圧症診療に携わる医師や医療機関では、啓蒙活動を行い、少しでも疑わしい症状があれば気軽に相談・紹介していただくよう、周辺の医療機関や医師に伝えています。こうした相談の敷居を少しでも下げるために、NUCAN電子@連絡帳の活用をはじめ、積極的に診療連携に取り組んでいます。
地域と専門医療を結ぶNUCAN電子@連絡帳の役割
このように、地域の病院と名古屋大学医学部附属病院との連携をより円滑にするために始めた取り組みが、医療用チャットツール「NUCAN(Nagoya University CArdiology Network)電子@連絡帳」です。もともとは、高齢者の在宅医療や介護に関わる行政および各専門職(医師、歯科医、薬剤師、訪問看護師、介護ヘルパー、ケアマネジャー等)が相互に情報連携するためのICTプラットフォームとして、名古屋大学医学部附属病院 先端医療・臨床研究支援センターが開発しました。そして、2017年4月からインターネットイニシアティブ(IIJ)社が事業化し、IIJ電子@連絡帳サービスを提供しています。徐々に普及し、現在では愛知県内のほぼ全ての市町村で導入されています。希少疾患や難病に対する高度医療や先進医療を提供できる施設は限られているため、この基盤を活かし、地域の病院とそれらの施設との連携に応用できるよう機能をカスタマイズし、現在の形となり、臨床研究として進めています。
情報共有の進化と課題解決
NUCAN電子@連絡帳は、静止画を添付し、テキストでやり取りを行うチャット形式のツールです。従来の連絡手段であった電話、FAX、手紙に比べて、やり取りがスムーズになったと感じています。お互いの都合に合わせて返信ができ、比較的テンポよく複数人で同時にディスカッションができる一方で、核心的な部分での意見交換が難しいという課題もありました。
この問題を解決するためには、直接話し合うことが最適です。これまでは、複雑なケースにおいて、連携先の病院を訪問し、書類カルテを確認しながらFace to Faceで先生と話す方法を取っていました。しかし、移動には時間と労力がかかり、訪問のための予定調整も必要なため即時対応が難しい場合もあります。次に考えた手段が、患者本人の診察に次いで重要で情報量が豊富な、エコー動画やCT画像などの情報の共有です。そこで、Caselineを導入し、検査動画を直接確認しながら話し合える体制を整えることができました。
医療動画共有の新たな道
心臓のエコー動画は非常に情報量が多く、心血管疾患の診療には不可欠です。この検査は低侵襲で、患者さんに対する負担が少なく、比較的どの医療機関でも実施可能です。ただし、データは基本的に動画形式であり、データサイズが大きいです。それをリアルタイムで動画を再生しながらディスカッションできるのは非常に有用だと考えています。
肺高血圧症の診療においては、CT画像も重要な要素です。CT画像は枚数が多く、データ量が非常に大きいため、従来の画像共有の方法では、応談側にCT画像を確認してもらうために、相談側はDVDにデータを焼いて郵送する必要がありました。応談側はビューワーを立ち上げ、データを読み込み、画像を確認するまでにかなりの時間がかかります。匿名化された情報であればZoomでも共有可能ですが、その場合も相談側のPCでビューワーを立ち上げ、その画面を共有する形式で行っていました。しかし、前述のとおり、この方法では非常に時間かかり、途中でフリーズしてしまうこともしばしば起こりました。そのため、実際には特徴的な部分を切り取った静止画を数枚提示する形が多かったのです。しかし、Caselineを活用することで、院内でカンファレンスをするときのように、電子カルテの動画をスムーズに共有できるようになりました。
医療資源の効率的な配置を目指して
今回のCaselineの導入は、当院が愛知県から受託した医療資源適正化連携推進事業の一環として進められています。この事業にはいくつかのプロジェクトがあり、私が所属する先端医療開発部では、疾患別オンライン診療システムの構築を掲げています。私自身が肺高血圧症の診療に関わっているため、この疾患を先行事例に選びました。他の難病や希少疾患も共通の課題を抱えていると思っていて、専門医や専門施設にどのようにつなげるかが重要です。私たちの取り組みが整備されれば、その成果を水平展開することで、他の難病や希少疾患、先進医療の分野にも応用できると考えています。
また、一般的によく見かける疾患病態に関しても、事前に情報共有を行い、病院間でのカンファレンスが実施できれば、医療資源を適正かつ効率的に配置することができ、広範囲の患者さんに対してより適切な治療ができるようになります。そのような体制作りに少しでも貢献できるよう日々取り組んでいます。