CASE #19Caseline|急患の初期対応の判断

Caseline導入により救急外来で初期対応の確定までの時間が10分へ短縮。オンコール医師の病院への駆けつけが約50%削減

長井 洋平

国保水俣市立総合医療センター 診療部長 外科 兼 ICT医療推進センター長

2024年4月から「医師の働き方改革」の新制度が施行され、医師の長時間労働を改善する一つの手段として、遠隔医療システムが注目されている。
2024年1月、熊本県水俣市と当社は、高次医療機関とのオンライン・リアルタイム連携システム導入支援業務についての委託契約を締結し、国保水俣市立総合医療センターに遠隔医療支援システム(医療機器プログラム認証)「Caseline(ケースライン)」を導入した(※1)。
Caselineの特長は、①リアルタイムで動的情報(電子カルテ画面、CT、エコーなど)を共有しながら複数人での通話が可能であること、②通信環境下であればどこでもすぐにつながること、③医療機器ガイドラインに準拠し、サーバーやデバイスにデータを残さないためセキュリティが担保されていることが挙げられる。
今回紹介するのは、国保水俣市立総合医療センターの救急外来におけるCaselineの活用事例である。この病院は地域で唯一の急性期総合病院であるため、急患の病態が多彩で重症例も多く、特に時間外の救急外来では診断や初期対応に悩む場面が多い。そこで長井氏は、急患を診察し専門医に一次判断を仰ぐ際にCaselineを活用。これにより、各地で待機しているオンコール医師が病院へ駆けつけるケースが半減し、初期対応の方針決定時間が平均10分と大幅に短縮した。

※1 2024年1月12日プレスリリース https://www.heartorg.co.jp/news/194/

記事公開日:2024年7月31日

国保水俣市立総合医療センターは地域の中核病院で唯一の急性期総合病院

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水俣市は熊本県の南端に位置し、鹿児島県と隣接しています。国保水俣市立総合医療センターは、水俣芦北医療圏の地域医療を担うだけでなく、鹿児島県北部県境からの急患も受け入れています。当院の医師数は40~50人で、年間の救急車受け入れ数は1600件前後であり、地域唯一の急性期総合病院です。水俣市は熊本県中心部から約100km離れているため、大学などの高次医療機関への広域搬送が過去3年間で52件と多く、その中でも脳血管や循環器の症例が多くなっています。

これまではオンコール医師が病院に到着してから初期対応が確定

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時間外に急患が搬送されると、まず当直医が診察を行い、必要な検査をオーダーします。以前の診療の流れでは、当直医(当院は一人体制)が検査結果を見ながら、必要に応じて各診療科のオンコール医師を電話にて呼びます。そして、オンコール医師が到着して初めて診察や検査結果の供覧が行われ、初期対応が確定し、多職種が動き始めるという流れでした。当院と似た規模の病院では、これが通常の流れだと思いますが、これでは全員の初動に時間がかかり、結果的に患者さんの待ち時間が長くなってしまいます。特に夜間の救急外来ではつらいことだと思います。

しかし、ICTを活用することで、この「初期対応の確定」までの時間を短縮することができます。救急医療においてそれができれば、さまざまな効果が生まれると期待し、当院ではこの数年で複数のICTの導入を検討してきました。その中でも、Caselineは電子カルテ画面を専用回線で遠隔共有することで、リアルタイムに症例の相談ができるという大きな特徴があります。これは救急の現場対応や急性期のトリアージに適していると考え、数か月の実証を経て導入、実装を決めました。

ICT導入による初期対応の迅速化

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私たちの地域で行っている急性期におけるICTの活用は上図の通りです。Caselineは、より専門的な判断が必要な際、当直医とオンコール医師の間で活用されます。その遠隔相談や相談指示に基づいて、初期対応の方針がいち早く決まります。

オンコール医師にとっては、電話での口頭だけの相談と比較して、遥かに詳しい情報を得られるため、病態や緊急性の判断とともに、実際自らが病院に診察に行くべきかの判断もしやすくなります。重症で緊急性がある場合は、初期対応の追加指示を出しつつすぐに病院に向かいますし、逆に軽症で経過観察後に帰宅して良い状態の場合は、その旨を当直医にお願いすることもできます。当直医としては、すぐに専門科の支援を受けられるので大変心強いはずです。

そして何より、より適切で迅速な治療方針の決定につながるので、患者さんにとってはメリットしかありません。方針決定が迅速化すれば、それに連動する多職種の動きも迅速化されます。特に救急外来で多くの業務を担う看護師にとっては大きな助けとなります。これらは医療従事者全体の働き方改革を進める上で非常に重要なことです。

ICT導入による効果

現在、私たちは急性疾患全般でICTを積極的に活用しており、過去1年半で122例の活用事例があります。ICTの活用により初期対応の方針が決まるまでの時間は、従来の約30~60分から平均10分に短縮されました。症例は脳血管、急性腹症、呼吸器、循環器、整形外科など多岐にわたります。重症患者以外にも、重症度や該当科の判断が悩ましい症例や、軽症と判断して帰宅させて良いかどうかなどの相談でも気軽に利用しています。

特に、深夜や早朝の時間帯での相談においては、より利用価値が高いと思います。今では自然とみんなが積極的に使うようになりましたが、これは使った方が患者さんにとって有益なのは明らかであること、当直医やオンコール医師にとってお互いの業務負担の軽減につながることを実感しているからだと思います。

このようなICTの活用によって、オンコール医師が実際に病院に駆けつけた回数が従来と比較して約50%まで削減できました。

実際のCaselineの活用方法

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私たちは、ノートパソコン型の電子カルテにCaselineアプリをインストールしたiPadを常時接続し、それらをタワー型のカートに乗せて救急外来の診察室の横に置いて使用しています。ノートパソコンに表示された電子カルテの画像を送信側のiPadで映し出し、それを遠隔地にいる医師が持つ受信側のiPadもしくはiPhoneに表示します。採血結果の時系列、経過表、CT、レントゲン、エコー、現場映像などを画面共有しつつ、同時に音声通話で相談を行います。

ある時、私がアメリカに出張中に現場の医師が術中の治療方針に迷い、相談が必要な症例がありました。その際もCaselineを利用して、国保水俣市立総合医療センターとアメリカ間で遠隔相談を行うことができました。腹腔鏡手術の術中映像をリアルタイムに共有しながら手術を進めてもらいましたが、お互いに全く違和感なくディスカッションを行うことができました。インターネット回線さえあれば、国内外のどこにいても遠隔相談が可能です。

Caselineの操作性と期待

Caselineはユーザーインターフェイスが良いので、直感的に操作しやすいです。救急の現場で緊迫している状況下において、初めて使う医師でも、ぱっと見て操作できることはとても重要です。3系統の画面をタブで切り替えることができるので、現在施行中のエコー画面や術中映像なども共有できます。また、ディスカッションの補足ができるアノテーション機能も優れていると感じます。

実際にCaselineを活用してみると大きなトラブルはほとんどありません。将来的には、現場のWebカメラの画像をピクチャーインピクチャー(※1)で表示し双方の顔やその周辺の状況を見ながら相談できるようになると非常に役立つと思います。救急現場では緊張感も伝わりますし、周辺に映った専門医に声をかけて相談することで、議論が広がることが期待できます。ぜひ実現してもらいたいと思っています。

※1 パソコンなどの画面の一部に、小さな画面を別表示すること

ICTの活用と将来の展望

現在の運用で、初期対応の方針決定時間が劇的に短縮され、医療従事者全体の初動が迅速化しました。また、ICTの活用により、時間外の相談に対する心理的なハードルが下がり、「少し悩ましいから聞いてみよう」という機会が増えました。これにより、より適切な医療を患者さんに提供できることにもつながるので、大きなメリットと感じています。

将来的な目標は、県央の高次救急医療機関と当院のような地域病院との間で重症例の緊急相談が常時可能となることで、県域全体の医療の質を向上させることです。そして同時に医療従事者の働き方を改善することが大きなテーマです。医療ICTをもっと工夫したり組み合わせたりすることで、患者さんと医療従事者の双方に大きなメリットをもたらすことができると確信しています。