CASE #17e-casebook LIVE|内視鏡検査や治療の教育の底上げ

他では見られないディスカッションを公開し内視鏡の教育の新たな地平を拓く

三澤 将史

昭和大学横浜市北部病院 消化器センター 講師

近年、内視鏡技術は著しい発展を遂げ、内視鏡による消化器がん治療がより高度なものとなった。その進歩に対応するため、専門医の知識と技術のキャッチアップが求められている。2021年当時、消化器領域で手軽に学べる動画コンテンツは非常に少なかった。そこで、三澤氏監修のもとe-casebook LIVEで数々の教育コンテンツを発信。忙しい医師の学習を効率的にサポートするため、他の媒体では得られないコンテンツやディスカッションを提供していきたいと三澤氏は話す。

記事公開日:2024年6月6日

内視鏡領域の課題と卒後教育の課題

内視鏡検査は、先端に小型カメラやレンズを内蔵した太さ約1cmの細長い管を口または肛門から挿入し、食道、胃、十二指腸、大腸の内部を観察し、時には治療を行うものです。医療機器や技術の発展により、その応用範囲は広がり、診断から治療までスムーズに行えるようになってきました。

一方で課題も存在します。まず、内視鏡検査の質は医師個人の技術や経験に依存するため、検査結果の質が均一に担保されていない点が挙げられます。例えば、大腸内視鏡検査においてポリープの発見率が高い医師の検査を受けた方が見落としが減るため、結果的に患者さんが大腸がんになるリスクが低下します。また、発見したポリープや病変を治療するかどうかの鑑別診断の精度が、必ずしも全ての医師で高いわけではありません。ポリープには、将来的にがん化の可能性がある腫瘍性ポリープと、がん化はしなくても出血などの症状を起こす非腫瘍性ポリープがありますが、両者は見た目が非常に似ています。表面をじっくり観察しないと区別できないので、診断の経験値を向上させる必要があります。

また、治療の手技の均てん化が十分に行われていない点も挙げられます。例えば、大腸がんの切除方法にはさまざまな流派があります。私のように20年の内視鏡治療の経験があっても、常に新しい治療手技、新しい病気の概念、新しい治療薬を学び続ける必要があります。患者さんに最適な医療を提供するためには、定期的な技術力のブラッシュアップが不可欠です。

さらに、医師の卒後教育の課題もあります。大学卒業後、医師として勤務する傍ら、知識をアップデートすることに関心のある医師は勉強しますが、関心のない医師は勉強しません。これが医師の技術力や診断力の差につながります。専門医や指導医の資格更新のため、学会や研究会で定期的に勉強するチャンスはありますが、それでも数年に一度の頻度です。この頻度では最新の知識をキャッチアップすることは難しく、やはり自身で学習しなければならないとなった場合、日常診療の中で学ぶには「手軽なコンテンツ」が必要です。

e-casebook LIVEの教育ライブは中立的でフラットな内容

e-casebookチームから消化器領域の教育ライブの監修依頼を受けた2021年当時、消化器に関する動画コンテンツはWeb上にそれほど多くはなかったので、e-casebook LIVEは忙しい医師にとって良い教育サイトになるのではないかと思いました。e-casebook LIVEの教育ライブは原則として無料で提供されており、企業スポンサーはついていません。企業スポンサーがつくセミナーは、企業が発信したい内容が基盤となるため、情報に偏りが生じやすいです。一方、企業スポンサーの影響を受けない教育ライブは、偏りのない内容で幅広い知識を習得できます。この趣旨に共感し、監修としてサポートさせていただくことにしました。

e-casebook LIVEの視聴者は学習意欲が高い

私はさまざまな媒体でレクチャーした経験がありますが、e-casebook LIVEは視聴者の反応が非常に良いと感じます。e-casebookには学ぶ意欲の高い医師が会員登録しており、コンテンツに興味のある医師が純粋にライブを視聴しているからです。他の媒体でセミナーを開催すると視聴者からの質問が来ないこともありますが、e-casebook LIVEではシンプルな質問でもきちんと寄せられ、視聴者の熱意を感じます。

また、教育ライブの監修では、他のセミナーでは見られないような組み合わせの座長や講師を推薦し、その先生たちがディスカッションをしたらどのような展開になるのかを楽しめるテーマを意識して企画しています。例えば、学会ではざっくばらんな話をすることは難しいですが、リラックスした雰囲気の場でどのようなディスカッションを引き出せるかを重視し、司会の先生を選定しています。

視聴者が「今知りたい」、指導者が「知ってほしい」がテーマ

取り上げるテーマは、視聴者の先生方が今知りたい内容を重視していますし、普段私が指導している先生方に知ってほしいことも重視して選定しています。視聴者全員が満足するテーマ選びは難しいので、ある程度、初心者向け、中堅向け、エキスパート向けなど、ターゲット層を絞ってテーマを決めています。

また、自分で学習するとなると調べるのが大変な内容も企画しています。例えば、先日ライブ配信した「大腸ESDの基本・基本・基本」というセミナーでは、病変を引っ張り切開剥離する方法と、トンネル法と呼ばれる自然な張力を利用して病変を剥離する方法について取り上げました。これらの方法について教科書ではそれぞれの流派に分かれており、エキスパートである著者も異なる見解を持っているため、一冊の教科書で学ぶのは難しいです。そこで、ライブ配信ではあえてこのテーマを取り上げ、それぞれの流派の専門家に解説してもらいました。これにより、教科書には書かれていない機微なセッティングやコツなども直接聞くことができ、教科書を読む以上の収穫が得られたのではないかと思います。このような「知っておくべき」内容は、無料で公開して知見を広めるべきだと考えています。教科書や専門雑誌を読んで学べる以上の情報を提供できるように意識して企画を立てています。
 

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e-casebook LIVEへの期待

今後取り上げたいテーマとしては、視聴者の多くが興味を持つ内視鏡の診断治療や手技の内容を引き続き掘り下げていきたいと考えています。私自身が研究開発に携わっているため、研究計画書の書き方や論文の執筆方法、科研費の獲得方法、良いジャーナルに掲載するための手法など、他の媒体ではあまり取り上げられないアカデミックなテーマにも焦点を当てていきたいと思っています。

今後、e-casebook LIVEが教育基盤として成熟していくことを願っています。まずは、多くの方にe-casebook LIVEに参加いただき、定期的に教育ライブをご視聴いただきたいです。私も監修の立場として、視聴者のフィードバックをいただきながら改善し、内容をアップデートしてきたいと考えています。このような双方向の関係を築きながら、他では見られないコンテンツが充実していくと、唯一無二のプラットフォームになると確信しています。